ソフトウェア無線(SDR)を使えば、目に見えない様々な電波をPCの画面上に映し出すことができる。しかし、SDR#の標準機能である滝のように流れる画面は、動きの速い電波を見るのには向いているが、ノイズに埋もれてしまうほど微弱な電波を見つけるのには向いていない。
この記事では、見えない信号をじっくりと時間をかけて浮かび上がらせる魔法のようなプラグイン「IF Average Plugin」の最新版を入手し、活用する方法を解説する。
なぜ「加算平均」をすると微弱な電波が見えるのか?
空間を飛び交うノイズ(ザーという雑音)は、強くなったり弱くなったりとランダム(不規則)な動きをしている。一方、宇宙から届く特定の電波や、電子機器から漏れ出ている微弱な電波は、常に同じ周波数で一定の強さを保っている。
この2つが混ざったデータを、数分から数十分にわたって足し合わせて平均(加算平均)するとどうなるだろうか。ランダムなノイズはプラスとマイナスが打ち消し合って「一定の平らな線」に落ち着いていく。しかし、常にそこにある微弱な信号の成分だけは、少しずつ積み重なって山のようにはっきりと浮かび上がってくるのである。
カメラの「長時間露光」を想像してほしい。暗い夜空でも、シャッターを長時間開けっ放しにすると、肉眼では見えなかった星の光が蓄積されて明るく写る。これと全く同じ原理を、電波の世界でソフトウェア的に行うのが「IF Average Plugin」である。
この技術を使えば、高校の課題研究や部活動で以下のような実験が可能になる。
- 天文: 宇宙の水素ガスが放つ極めて微弱な電波(21cm線、1420.4 MHz)の検出と、銀河の回転速度の計算。
- 物理: 自作の電子工作回路やPCから漏れ出ている、ノイズのような微弱電波の特定。
- 無線: 遠く離れた場所から届く、非常に弱い無線の電波の観測。
最新版プラグインのインストール方法
昔のネット記事を見ると「Plugins.xmlというファイルを書き換える」と書いてあることが多いが、現在の最新版SDR#ではその作業は不要である。
- プラグインのダウンロード:このプラグインは有志によって最新環境向けにアップデートされている。GitHubの
DanielKami/SDR_AVE_new(リンク)へアクセスし、緑色の「Code」ボタンから「Download ZIP」を選んでダウンロードする。 - ファイルの配置:ダウンロードしたZIPファイルを解凍し、中にある
SDRSharp.IFAverage.dllなどのファイルをコピーする。次に、自分のPCに入っているSDR#のフォルダ(SDRSharp.exeがある場所)を開き、その中にあるPluginsというフォルダの中にペーストする。(※もしPluginsフォルダが無ければ、一度SDR#を起動して閉じるか、自分で新しいフォルダを作成する) - 動作確認:SDR#を起動して、画面左側のメニュー一覧に「IF Average」という項目が追加されていれば成功である。

観測のステップ
微弱な電波を見るためには、ただプラグインをオンにするだけでなく、機材の「オート機能」に邪魔されないような設定が必要である。
1. 「オート機能」を切り、感度(ゲイン)を固定する
スマホのカメラで星空を撮るとき、画面が勝手に明るさを変えてしまうと上手く撮れないのと同じである。SDR#の歯車アイコン(設定)を開き、「Tuner AGC」などの自動調整機能のチェックをすべて外す。そして、RF Gain(感度)のスライダーを手動で最大付近に固定する。
2. プラグインの分解能を設定する
「IF Average」のパネルを開き、チェックを入れて有効にする。
「Resolution (FFT Bins)」はグラフの細かさ(解像度)を決める数字である。微細な山の膨らみを見つけるためには、32768 や 65536 といった大きい数字に設定しておくとよい。
3. 「機材のクセ」を引き算する(Corrected Background)
SDR本体やアンテナ、フィルターなどの機材は、周波数によって「通りやすい電波」と「通りにくい電波」がある。つまり、何も電波がない状態でも、グラフの線は波打ってしまっている。この「機材のクセ」を取り除くのが最も重要な作業である。
- クセの記録(Background): まず、目的の電波がない方向へアンテナを向ける。その状態で数分間待ち、ノイズの波打ちが滑らかに落ち着いたら、パネルの 「Background」 ボタンを押してその形を記憶させる。
- 引き算の実行(Corrected Background): グラフの表示モードを 「Corrected Background」 に切り替える。すると、先ほど記憶したクセが引き算され、グラフが定規で引いたように真っ平らな直線になる。
- 観測開始: この真っ平らな状態で、目的の星や調べたい電子回路にアンテナを向ける。時間をかけて待つと、平らな線の上の特定の周波数だけが、わずかに山のように盛り上がってくるのが観察できるはずだ。
観測したデータは数値として保存できるため、Python等を使って自分でグラフを描き直し、レポートや論文の図表としてまとめることができる。
参考

