論文概要
- 論文について
- DOI: 10.1016/j.annals.2004.02.003
- APA形式: Cohen, E., & Avieli, N. (2004). Food in tourism: Attraction and impediment. Annals of Tourism Research, 31(4), 755–778.
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- 研究背景
観光における食事は、一般的に観光客を惹きつける主要な魅力(Attraction)として認識されており、旅行の意思決定においてポジティブな要素としてのみ捉えられがちであった。しかし、食事は単に観光客を目的地に引き寄せるだけでなく、観光経験の質を損なう要因ともなり得るという、その二面性に着目する必要があった。 - 研究目的
観光における食事に対する一般的な「魅力説(Attraction)」に異議を唱えるため、観光客が馴染みのない目的地の食文化の領域(Culinary sphere)で経験する複雑さや障害(Impediments:妨げとなる要因)に焦点を当て、食事のネガティブな側面を概念的に分析し、その役割を再定義すること。 - 方法
本論文は、特定のデータ収集を伴う実証研究ではなく、概念的・理論的分析を採用している。既存の観光学および関連分野の文献検討に基づき、食事の役割を「魅力」と「障害」の二元論として捉え、観光客の食体験における仲介役(Mediators)となる要素を記述し、その複雑な様相を理論的に整理した。 - 結果
観光客が現地の食文化に魅力を感じていても、経験を阻害する具体的な障害が特定された。主な障害として以下の要因が挙げられる。- 衛生基準(Hygiene standards): 現地の食に対する衛生面での懸念。
- 健康上の考慮事項(Health considerations): 食物アレルギーや特定の食材に対する身体的な懸念。
- コミュニケーションのギャップ(Communication gaps): 料理の内容や注文に関する言語的な障壁。
- 知識の不足: 現地の料理や食文化に関する観光客の知識や経験の欠如。
- 考察
本研究は、観光客が現地の食文化を経験する際に直面する緊張状態と不確実性を強調し、食事の経験が単なる消費ではなく、文化的な意味合いを持つ真正性(Authenticity:本物らしさ)の探求でもあることを論じた。仲介役としての役割を果たす料理提供施設は、観光客に合わせた多様な食の経験を提供することで、食の障害を軽減する役割を担う一方で、料理の真正性を巡る議論を引き起こす可能性についても言及した。 - 結論
観光における食事は、単なる目的地への誘引力(Attraction)としてだけでなく、観光客の快適性や健康、文化理解を脅かす潜在的な障害(Impediment)としても機能する複合的な現象である。観光産業の関係者は、この食事の二面性を認識し、観光客の経験を向上させるために、情報提供の強化、衛生管理の保証、そして食文化への円滑な導入(仲介)に取り組むことが重要であると結論付けられた。
